任せるけれども頼らない

僕には定期的にお会いしてお話を伺う方が何人かいらっしゃいます。
そのお一人、ある大きな新聞社のOBの方からは、取材を通じて得られた大企業のトップたちの金言をいくつもいただいています。


先日お会いしたときに、僕が
「社員に任せるといいながら、つい手を出してしまうんですよ。
あれもこれもやってきた創業社長のさがでしょうか」
と打ち明けると、その方は、
「任せるけど頼らないのがトップだよ」
とおっしゃいました。


その瞬間、僕の目の前にぱっと明るい光が差してきたかのようでした。
任せるけど頼らない、そうか、任せると頼る、この二つは違うんだ。


「任せることを頼ることと取り違えているリーダーっていうのは、なんでも丸投げしちゃうんだよ」

これもおっしゃる通りです。
任せることと丸投げは違いますね。


僕も、勤め人だった時代には聞いたことがあります。

「よし、この件はお前に任せた」

度量の広い上司かと思いきや、丸投げ上司に過ぎなかったと理解するのにあまり時間はかからなかったように記憶しています。


「お前だけが頼りだよ」

これも聞くことがありました。
戦略的にいうのならまだいいと思います。
その言葉でがぜんやる気を出すタイプの子もいますから。
でもその場合も、本人の資質をよく見極めることが大切でしょう。


いずれにしてもトップは自覚的であることが必要条件になります。
いま自分は社員に任せているのか、それとも頼っているのか、もしかして丸投げしてはいないだろうか。
内省をして自分を検証していくことで、正しく任せることができるのだと思います。


たとえば「これを作っておいて」とある社員に任せるとします。
それができあがるまでは口を出さないし、手も出さない。
「できました」と持ってきたときに、それを使うことで問題が起きないかどうかを確かめるのはトップの役目です。


ただ気に入らない、とか、これではだめだ、といって却下するだけなら任せた意味はありません。
社員自身も問題点がわからないから、修正のしようがないでしょう。
「お前に任せたんだからお前が考えろ」
それで社員を鍛えているつもりになっているとしたら、トップのほうが未熟だといえます。
態度は偉そうだけれども、ようは社員に頼っているのですから。


僕が「任せたのについ手を出してしまう」と自分で感じているのは、確認作業の部分だったのかもしれません。
「それで大丈夫か、問題起きないか、ちゃんと動いていくか」
と確かめたくなるのです。


安易にたとえたくはないのですが、親心にも似ています。
こどもの成長はうれしいし、自主性に任せたいのだけれども、危険がないかどうかはいつも気になる。
その親心の部分を封じたら、親としての責任も果たせなくなるように思います。


社員に任せることの意味は、挑戦をさせ、最後までやり抜く経験をさせることと、それによって自信をつけ、次の挑戦へのモチベーションを上げることにあります。
もちろん、会社としての出来高に反映させることが前提となりますが、それ以上に社員の成長という目には見えないものが返ってくるのです。


僕が「口や手を出さずに任せたい」と思ってきたのは、彼らの成長を妨げたくないからでもありました。
仕事ができてから、問題のあるなしを確かめることは成長の妨げにはならず、彼らの仕事の質を高めることにつながるでしょう。
僕自身、新たな自信を得ました。


板前さんの世界なら、親方が、
「お前に煮物は任せるけれど、味見はするぞ」
というところですね。
弟子に任せるが、店の味になっているかどうか、味見してみなければお客様に出せはしない。
弟子としても、親方に味見をしてもらうことで初めて自分の腕に自信が持てます。


僕もこれからは堂々と味見をしますよ。
株式会社店舗ドックの、任せるけれども頼らない社長として。






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髙倉 博

株式会社店舗ドック代表取締役

1970年、東京都世田谷区生まれ。
大学進学に失敗し簿記の専門学校へ進んだ経験が、「大卒者には負けない」という原動力となる。

卒業後、父親の会社で「自分が脇役の人生になってしまう」と焦りを感じて起業。
創業7年目の34歳で看板用LED事業で成功を掴むが、取引先の倒産などが重なり、36歳で1億円の借金を抱える。

最愛の母の死をきっかけに人生を見つめ直し、コンサルタント長山宏氏との出会いを経て再起。
「不安や不便を見つけ、クリエイティブに解決する」(快適の創造)というミッションを見出し、大手企業向けの看板業務代行に注力して評判を得る。

しかし42歳の時、社内クーデターを機に自暴自棄となり酩酊し、社員旅行の宿泊先の窓から飛び降りるも、標識に衝突し奇跡的に命拾いする。
自分を見つめ直し「看板で悲しむ人をゼロにする」という使命を確信し、「看板ドック」事業に邁進。

多くの顧客に支持され、2025年10月1日には、27年間続いた社名を「株式会社店舗ドック」に変更し、業界の更なる変革を目指している。


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